昔初めて行ったキャバクラで出会ったキャバ嬢があまりにもビッチだったことを思い出した。
『これはネタになる』と思い、急遽レポートを作成した次第である。
本レポートは、狂ったキャバ嬢「ゆあ」とのやり取りを克明に記したもの。
なお、このレポートは超が付くほどの長文だ。
そこらへんを了承された上で、じっくりとお読み頂きたい。
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店名 | 思い出せず(笑) |
名前 | ゆあ(源氏名) |
年齢 | 20歳 |
地域 | 東京都 |
身長 | 165cm |
活動エリア | 池袋 |
人生初のキャバクラ
それは2年ほど前のことだった。
当時の俺は、池袋の雀荘でバイトとして働いていた。
その雀荘では昼番(8時から)と夜番(20時から)と勤務形態が分かれており、俺は昼番として働いていた。
昼番は勤務終了時間が人によって違うのだが、ほとんどの人は20時?22時の間にバイトが終わる。
バイトが終われば、会社の寮に帰って寝るだけの日常だ。
そんな怠惰な生活を繰り返していたとき、バイトが終わった後に社員のKさんから「キャバクラに行こうぜ」と誘われた。
バイト終わりの時間に、暇を持て余す俺にとっては断る理由は無かった。
「行きます!」
高々と上げた声には、期待と不安と好奇心が入り混じっていた。
それが、俺がキャバクラデビューする日でもあり、夜の遊びを初めて体験する日でもあったからだ。
キャバクラは未知の遊び場である、嫌が応にもワクワク感は拭いきれない。
その気持ちは店に近づくにつれて、どんどん大きくなっていくのが実感できる。
俺の他には、Kさんと他2人(このレポートでは深く関与しないため割愛)がいた。
合計4人の団体、人間は人数がいればいるほど不安が消えて行くとともに、調子に乗る生き物でもある。
K「お前キャバクラは初めてだったよな?」
「はい!キャバクラってどんなところですか?楽しいですか?」
K「そりゃ楽しいよ、もしかしたら女を落とせるかもしれないからな。現に俺は今キャバ嬢と同棲してるし」
「マジっすか!?それ凄いっすね!めっちゃ楽しみです!」
Kさんは自慢癖があるところが鼻につくが、それでも後輩の面倒見のいい先輩であった。
話し振りから相当のベテランであることが伺える、ここはおとなしく勉強させてもらったほうが良さそうだ。
色々な話をしながら早足で歩いているうちに、目的の店に着いた。
店名は忘れたが、仮にXとしておくことにする。
Xに入ると、店内は驚くほど華やかだった。
店内を明るく彩る、見るからに高級そうなシャンデリア、手入れが行き届いている革製の黒いソファには、それぞれ何組もの男女が楽しそうに話をしながら座っていた。
キャバクラとともに夜の遊びが初めての俺には、全てが眩しく映っていた。
雰囲気に圧倒されるように見とれていると、Kさんが「ボーッと突っ立ってられると俺が恥ずかしいだろ。あ、ボーイさん4人ね」と着々と黒服の男に説明していた。
席に着くと、ほどなくして女の子が4人現れた。
まずビックリしたのが、その娘たちが俺らの1人1人の間に割り込むように座ってきたこと。
それが当たり前のことなんだよ、後でKさんから教えられた。
初めての俺はオドオドしまくりだ、これじゃあ仲間に俺を助けてもらうための話がしづらいじゃないか。
完全なる女の子との一対一の状況、女の子とあまり話をしたことのない俺は、緊張しつつも静かに覚悟を決めた。
最初に俺の席に着いたのは「エリカ」、ギャル風だがかなり若く見え、喋り方が生意気な感じの娘だった。
とりあえず年齢を聞いてみると、なんと18歳。
しかも、働き始めたのは今日が初めてだとのこと。
今思えば、嘘かもしれないというのは容易に想像がつくが、当時の俺にとってはその娘に対して親近感を感じる材料でしかなかった。
エリカと打ち解けていくのは時間の問題だった、自然に会話も弾んでいく。
キャバクラの楽しさを見出しつつ、彼女と突っ込んだ会話をしているときだった。
「ゆあ」との出会い
K「おーい、江川江川」
奥の席に座っていたKさんから、突然声がかかった。
「はい?なんですか?」
K「この娘が、お前の隣に座りたいんだとよ」
このときの俺には、もちろん頭に?マークが付いている。
「え?別にいいですけど、そういうときどうしたらいいんですか?」
K「そういうときは場内指名を使えばいい、金払って店内の気に入った女の子を隣に座らせられるシステムだ」
「はあ、どうしたらいいですかね?」
K「せっかくだから隣に座らせてやれよ」
というわけで、仕組みをよく理解しないまま、ボーイに頼んでその娘を場内指名した。
「ありがとうございました」
終止生意気な口を聞いていたエリカだが、意外にも去り際は礼儀正しかった。
うーん、俺としてはもっと話していたかったんだけど…。
入れ替わり、さっきまでKさんの隣に座っていた女の子が俺の隣に座った。
江川「名前はなんて言うの?」
?「ゆあって言います」
それが、「ゆあ」との最初の出会いだった。
座ったのは、同じくギャル風のキャバ嬢、だがエリカとは違い、喋り方にギャル独特の胡散臭さはなかった。
そして何よりウエストが細くおっぱいがでかい、このスタイルの良さが俺にとってド真ん中ストライクだった。
「歳はいくつなの?」
「今は20歳です、今年で21になります」
ここらで、俺も軽く自己紹介を済ませる。
「なんで俺の隣に座りたいと思ったの?」
「それが…、最近元カレと別れちゃって。でもでも、江川さんが元カレと顔とか雰囲気とかがめっちゃ似てて!それでついついKさんにお願いしたんです」
本来は、喜んでいいのか微妙にわからない心境である。
要するに、元カレと俺がダブるから一緒に座りたくなったのだそうだ。
だが、当時の俺にとっては嬉しい以外の何物でもなかった。
その気持ちを体現するかのように、テーブル上のお酒が入ったグラスはどんどん減っていく。
その道中でゆあにドリンクも飲ませた、彼女もかなり酔っぱらってしまったようだ。
飲み過ぎて完全に出来上がった俺は、気持ちが大きくなってゆあに顔を近づけながら言った。
「俺んちに一緒に住まね?」
「うん、住みたい住みたい!」
「ていうか、その前に遊びに行こうよ」
「行きたい行きたい!どこ行こっか♪」
なんのことはない、酔っぱらい同士の意味の無いノリだけの会話である。
だが、ここにきて俺もゆあが少し気になり始めた、だからこそある言葉を口にしてみた。
「良かったら、ゆあの携帯教えてよ」
「全然教える!赤外線付いてる??」
『やった!』
俺は心の中でそう叫んでいた。
だが、これに関しては本来は何の喜びも感じてはいけない。
なぜなら、キャバ嬢は『指名が獲れそう』『リピーターになりそう』だと直感的に感じた客には、自ら名刺に個人情報を書いて渡すからだ。
しかし、当時の俺にはそんなことは当然知るよしもない。
生まれて初めて、キャバ嬢の携帯番号とアドレスをゲットできたことに、喜びを隠しきれなかった。
そうこうしているうちに、あっという間に1セット(60分)の時間が迫り、Yさんから声がかかる。
Yさんの衝撃的な一言
Y「江川、どうする?お前その娘といい感じだから、延長するかどうかはお前に任せるよ」
「します!」
反射的に大きな声で即答をしていた、完全なるアホである。
実は延長料金はセット料金のそれとは異なり、基本的に30分単位で計算され、セット料金の7割ほどの金額が上乗せされるのだ。
だが、上司と行くキャバクラは、大抵は上司が払うものと相場が決まっている。
そのため、「今日は多分Kさんの奢りだからいくら使ってもいい。さすがにドリンク代くらいは払うか」と軽く考えていた。
完全に汚いヤツであるが、ぶっちゃけ自分が得さえすれば後はどうでも良かった、人間ってそんなものだろう。
あっという間に夢の時間は過ぎ、さすがに帰ろうという雰囲気になりつつあった。
気が付けば最終的に5時間の延長をしていた、その間に女の子に幾つドリンクを飲ませたかは全く覚えていない。
「会計は2万くらいで済むかな、そんだけあればいいだろう」そんな甘いことを考えていた矢先だった。
「お会計はこちらになります」
ボーイが伝票を持ってきた、そこに書いてあったのは…200,000円という数字。
俺は一気に酔いが覚め、Kさんに対する罪悪感が心の奥底から沸いてきた。
「こ…ここここんな金額大丈夫なんですか!?」
K「大丈夫大丈夫、俺がクレカで払っといてやるから」
Kさんが神に見えた、心から彼に着いて行こうと思った瞬間でもあった。
支払いを終えて店を出ると、Kさんにすぐさま頭を下げてお礼を言った。
「Kさん、今日は本当にありがとうございます!」
K「いいよいいよ、後でお前らから貰うから」
『…は?』
口には出していないが、俺は心の中でそう呟いた。
他の奴らも同じことを思ったのか、不思議そうな顔をしながらKさんを見つめていた。
K「当たり前だろ。あと江川、お前が延長って言い出したんだから、お前は他のヤツより多めな」
俺の中では神のKさんが音を立てて崩壊し、そこから悪魔のKさんが顔を覗かせていた。
俺は終止、呆然としているほかなかった。
結局、俺の支払いは7万ということに決まった。
Kさんへの借金は、雀荘で働いて返済していくことになる。
K「あ、でもキャバ嬢のほうから客の隣に座りたいって言うことは滅多にないから、そこは喜んでいいぞ。俺も初めての経験だわ」
本来であれば素直に喜ぶべきKさんの言葉も、もはや心には届かない。
唯一の救いは、店を出るときのゆあの「また連絡して」という言葉と、彼女の溢れんばかりの笑顔だった。
それが俺のモチベーションを上げてくれた、借金は半月で無事に完済できた。
こうして、人生初の後味の悪いキャバクラ体験は幕を閉じたのである。
エリカとの再会
次の日の夜、ゆあから早速メールがきた。
「昨日は本当に楽しかったよ、ありがとう☆また会いたいから、暇なとき連絡してよ♪」
「俺のほうこそ楽しかったよ、ありがとう」
メール内での俺は、「みっくん」(管理人の下の名前から取ったもの)と呼ばれていた。
こうしたゆあとのメールのやり取りは、1日3~4通くらいのペースで行われた。
メールの内容は他愛もない、お互いの近況や悩み、愚痴などを言うだけのものだった。
Kさんからは、「どうせ営業だから、そんなに力入れてメール返さなくてもいいよ。最終的に店に来いって言われるだけだから」とはアドバイスされたものの、それに従おうという気持ちはなかった。
俺が自分から、『ゆあとメールをしたい』と思うようになっていたからだ。
そのときは、多分ゆあのことが純粋に女の子として「好き」なのかなとも感じていた。
だが、そんな気持ちを表すことは特にせず、同じようなペースでメールは続いていた。
その間に、彼女から「お店に来て」とは一度も言われたことがなかった。
そんなメールのやり取りが続いて1ヶ月ほどしたとき、ゆあからこんなメールが届いた。
「明日ウチの誕生日なんだよね、でも、今の所指名してくれるお客さんがいないの。頼れるのはみっくんしかいないの。みっくんと一緒に自分の誕生日を祝いたいから、今日の0時までにお店に来てくれない?」
「あ、言い忘れた。ウチお店が変わったんだよね、Yっていう店になったの」
これが営業ってヤツか、俺は少しガッカリしてしまった。
だが、こう言われては男として行くしかないだろう。
しかも、大好きなゆあの頼みとなれば、行く以外の選択肢が見当たらない。
まあ、それがYとゆあの思うツボだったのかは、今となってはわからないが。
「今日0時までに必ずYに行くから、待ってろ」
その日はバイトが残業になってしまい、雀荘を出て自由になれたのは23時半とかなり遅くなってしまった。
Yはバイト先から遠く、「これは走らないと間に合わない」と感じ、気がつけば自然に足は走り出していた。
とにかく走りに走った、周りの通行人から見たら、すごく必死なヤツだと思われていたに違いない。
だが、その時はそんなことを考えている余裕はなかった。
額をつたう汗に比例しながら、周囲の景色はどんどん後ろに流れて行く。
「ゆあとの約束を守る」ただそれだけを考えながら、ひたすらに走った。
店に着いたのは23時55分、本当にギリギリの滑り込みセーフだった。
その頃には息が物凄く上がっていて、全身汗まみれ、心臓の鼓動が鳴り止まなかった。
あんなに全力で走ったのは、本当に久しぶりだった。
「ゆあちゃん指名なんだけど」
店に入ってボーイにそう告げると、事前に彼女から聞いていたのか、「あぁ」というような表情をしてみせた。
「こちらの席にどうぞ、ゆあさんはただいま待機中ですので、準備ができ次第こちらの席へ向かわせます」
店内はXとは打って変わって薄暗く、しっとり系の落ち着いたBGMが流れ、そこは疑似恋愛にもってこいの雰囲気と言うに相応しい。
まさに、俺のイメージ通りの夜の世界という感じだった。
席に案内されるなり、疲れ果てて思いっきり「ドスッ」とソファに腰掛けた。
腰回りを包んでくれる柔らかい質感が、疲れ果てた体にはとても心地が良かった。
「こんばんはー♪…あれ?」
唐突に声をかけられて、その女の子の顔を見て驚いた。
1ヶ月ほど前にXで出会った「エリカ」だったからだ。
「おー久しぶり!エリカちゃん店移ったの?」
「そうそう!実はあたし、ゆあとは親友でさー。ゆあからお店変えないかって誘われて、一緒に移ってきたんだよね。笑」
「そうなんだ!マジでビックリしたよ(笑)」
「で、今日はもちろんゆあ指名なんでしょ?」
「あれ、なんで知ってるの?」
「ゆあが待機中に、「みっくんが今日店に来るんだ」って嬉しそうに言ってた(笑)
まあ、しっかりやってきなよ」
「…で、なんでそんなに息上がってんの?(笑)」
「ゆあの誕生日に店に来る約束したからさ、バイト先から必死に走ってきた」
「健気だねー、ゆあが羨ましいよ(笑)
あ、ちなみにあたしはゆあがくるまでのヘルプだから、少しの間ヨロシクー♪」
「おう、こっちこそヨロシクな(笑)」
それからは、ゆあが来るまで他愛もない話をしていた。
ゆあとのこと、エリカの近況のこと、どれもとてもくだらない話ばかりだった。
「あ、そろそろゆあ来るからあたしはこれで!まったねー♪」
と言いつつ、そそくさと店の奥に消えて行くエリカ。
エリカがいなくなって間もない頃、本命のゆあが席に着いた。
ゆあとの再会、そして…
「みっくん久々ー♪」
「ゆあ久々!バイト先から走ってきたから、めっちゃ疲れたよ(笑)」
「うわーお疲れさま!でもちゃんと約束守って来てくれたから、ウチめっちゃ嬉しいよ♪」
「今日はゆあの誕生日だし、約束もしたし、遅れるわけにもいかないだろ。日付変わる5分前だから、かなりギリギリだけどな(笑)」
「ギリギリで全然オッケー♪来てくれたってことだけでいいの!」
席に着いてすぐにゆあのドリンクを頼む、そして俺も彼女に焼酎割りを作ってもらった。
そして、その時間はすぐにやってきた。
「ゆあ、誕生日おめでとう!」
「みっくんありがとー!マジで嬉しいんだけど、どうしたらいいんだろ(笑)」
「まあ、誕生日は誰にとってもおめでたい日だからな。そんな日に一緒にいれて俺も嬉しいよ」
「あー今日は幸せだー!みっくんマジいい人だね!」
そんなこんなで、誕生日と1ヶ月振りの再会を祝して乾杯し、ゆあとの話に花を咲かせた。
暗がりのためか、日を挟んだからなのか、ゆあはさらに可愛くなっているように見えた。
話が一段落した頃、『ここしかない』と俺は直感的に感じた。
酸欠だったのか酔っていたのかは不明だが、とにかく俺は勝負に出ようと考えたのだ。
「ゆあ、大事な話があるんだけど」
「えー、なになに?」
「俺のことってどう思ってるの?」
「どうって?うーん、凄く良い人!」
「そういうことじゃなくて」
俺は真剣な眼差しでゆあの目を見た。
さすがに、ゆあも俺がふざけていないことを悟ったのか、静かに話を聞いてくれた。
「ゆあのことが女の子として本気で好きなんだよ、だから彼女になってくれ」
言ってしまった、もう後には引けない。
一気に酔いが醒め、手には汗がにじんだが、俺はそれを打ち消すようにギュッと拳を握りしめた。
ゆあに視線を向けると、黙ったままうつむいていて、俺とは目を合わせないようにしていた。
ほんの数分が、何時間にも感じられるような錯覚に陥った。
「ああ、これは終わったな」心の中でそう呟いたときだった。
「…いいよ」
「え?今なんて言った?」
「あー、聞いてないならもう言わないよーだ!」
「いやいやマジで聞こえなかったから!お願いだからもう一回言ってよ!」
「みっくんと付き合ってもいいよって言ったの!同じこと言わせないでよ!」
「おっしゃあああああ!!」
嬉しさのあまり、どちらかと言えば静かな店内で大声を上げてしまっていた。
周りの客が、不思議そうな目で俺たちを見ていることに気付く。
「ちょっ!恥ずかしいから大声出さないでよ!」
「いやだってめっちゃ嬉しいもん、そりゃ大声出して喜ぶっしょ!笑」
「わかったからー!とりあえず座ってよー!」
興奮冷めやらぬ中、俺は黒いソファに深く座り直す。
「で、OKなんだよね!?」
「だから、そうだって言ったでしょー!」
「てことは、俺らはキャバ嬢と客じゃなくて、彼氏と彼女なんだよね!?」
「だからそうなんだってば!あんましつこいと撤回するよー!」
「じゃあ、受け取って欲しいものがあるんだけど」
「え、なになに?」
「ゆあの誕生日だから、ちゃんとしたプレゼント買おうと思ったんだけど、バイトがギリギリに終わっちゃったからさ…」
俺は、いつも両手に1つずつ指輪をはめている。
なんのことはない、おそらくブランド物でもない、ただの友人からの貰い物の指輪だ。
そして、おもむろに右手の指輪を一個外してみせた。
「これあげるからさ、とりあえず誕生日と記念日のプレゼントってことで受け取ってよ!」
「えー、これくれるの?貰っちゃっていいの?」
「いいのいいの!むしろ大切な日にこんな物しかあげられなくてゴメンな!この埋め合わせはデートでするから。笑」
ドン引きの読者の姿が目に浮かぶようである。
そりゃそうだ、書いている俺が一番死にたくなっているのだから。
「本当にありがとう、絶対に大切にするよ」
心から素直に喜んでいるかどうかはわからないが、俺にとってはそんな優しいゆあが天使に見えた。
晴れて、俺はゆあと恋人関係になれたのであった。
奇妙な関係
ゆあと彼氏彼女の関係になった翌日の朝には、全てが夢のように思えていた。
だが、メールにはしっかりとそのやり取りがあったという記録がある。
これが、俺に現実であることを強く実感させてくれる、紛れも無い証拠である。
嬉しさのあまりKさんに報告すると、「そりゃ良かったな、でも俺はキャバ嬢と同棲してるからな。それと、騙されないように注意しろよ」と言われた。
そのときの俺には、Kさんのいつもの嫌な自慢は全く気にならなかった。
「俺にはキャバ嬢の彼女がいる」
それだけで日常の全てが変わって見えた。
その事実が、俺の背中を強烈に押してくれるのだ。
ただのおめでたい奴に見えるが、それだけ当時の俺には衝撃的な出来事だった。
ゆあとのデートは、新宿や渋谷を中心にしていた。
やっぱり好きな女とのデートは一番楽しいもので、飲食店でも洋服店でも、どんな店でもその充実感は色あせることはない。
映画感やカラオケにも行った、俺はカラオケは全く好きではないが、ゆあと一緒だったら何でも良かった。
デート後の夜、八王子の家に帰るのが面倒くさくなって、池袋のネカフェで一夜を過ごし、次の日もまた朝からゆあと遊ぶということもしばしばあった。
デート費用は全て俺持ち、告白から2ヶ月経過した時点で肉体関係はなかったが、それを不満に思ったことは一度もなかった。
だが、渡せなかった誕生日プレゼントを、ゆあに要求された日が何度かあった。
そんなときは、彼女の好きな店で好きな物を1つ買わせてやった。
当然俺には金銭的な限度がある、毎回のデートで2万円くらいの物を目安に買い与えていた。
そのときからだ、ゆあに軽い疑念を抱くようになっていったのは。
「ゆあは俺のことを本当に彼氏として見ているのか?」
「コイツは俺のことを金づるとしか見ていないんじゃないか?」
「騙されないように注意しろよ」Kさんの忠告が痛いほど心に響く。
それなりに高額なデートを重ねるにつれ、その猜疑心は日に日に強くなっていった。
それと、もう1つ不思議なことがあった。
ゆあとのデートの3回に1回くらいの割合でエリカが付いてくるのだ。
「親友だから、別にいいでしょ?」
ゆあはエリカがくる理由を、そう俺に告げた。
エリカがいるということは、その分俺の負担が増えることを意味する。
それと同時に、ゆあと2人きりの時間が減ることに俺は少しムッとしたが、彼女のためにグッと堪えた。
ある日、3人で飲みに行ったときのこと。
エリカに「江川さんはゆあのどこが好きになったの?」と尋ねられた。
そういう質問には、好きな女のことでも意外に答えられないものである。
「んー、見た目とか雰囲気的にかなー?」
「なんだそれ(笑)」
エリカは意地悪そうな笑みを浮かべながら、「とにかくゆあの彼氏なんだからしっかりしてよ(笑)」と俺を一喝してきた。
「わかってるよ」
ぶっちゃけ、そのときの俺には、ゆあのことが本当に好きなのかどうかわからなくなっていた。
だからこそ、そんな曖昧な答えしか出てこなかったのかもしれない。
エリカ付きでカラオケに行ったときもあった。
俺は前述した通り、カラオケは好きではないしあまり歌わない。
そのため、煙草を吸いながらソファに横になり、2人が歌っているのをボーッと見ていた。
そうしているうちに、ゆあが歌いながら俺に怒りにも似た目を向けていることに気が付いた。
「ゆあ、どうした?」
声をかけても返事はない、さりげなくエリカに近付いて聞いてみる。
「なんかゆあ怒ってね?」
「さあ、自分の胸に手ぇ当てて聞いてみ?」
歌わないから?だらしなく横になっているから?ゆあと喋らないから?
俺は思いつく限りの理由をエリカに聞いてみたが、どれも「違うよ」と一蹴された。
無い頭を振り絞って考えたが、全く心当たりがない。
「降参だ、教えてくれ」
「煙草を吸いすぎてるからだってよ」
「はあ?」
確かに俺は煙草を吸うし、何もしないカラオケでは必然的にその本数も増える。
が、それは以前2人で行ったカラオケでゆあも知っているはずだ。
「本当にそんなことで怒ってるの?」
「うん、一応ゆあに謝っときなよ」
…全くもって腑に落ちない。
「ゆあ、ゴメン」
とりあえず謝ってみた。
「煙草吸いすぎると体に良くないよ?せめて吸う量減らしてよ」
なぜか、同じ喫煙者であるゆあに諭される形になってしまった。
「わかったよ、あまり吸わないようにするから機嫌直せよ」
「じゃあ許す!これで仲直りね♪」
今さら怒って心配するほどのことでもないだろう。
『…よくわからん女』
心の中でそう毒づいた。
店を出たときエリカに、俺がゆあが怒った理由に気付けなかったことをネタにされ、「情けねえ男だなー、しっかりしろよ(笑)」と説教もされた。
「うぜえ女だな、余計なお世話だ」
こう言えたら気分はすっきりしたのだが、もちろんチキンな俺には言える台詞ではない。
「わかったよ、アイツに見合うようにしっかりするわ」
そのときの俺には、こう言って強がるのが精一杯の抵抗だった。
こんな、俺とゆあとエリカの奇妙な関係は1ヶ月ほど続いたのであった。
エリカの破滅
それから1ヶ月の間は、ゆあと2人きりでデートをすることが多くなった。
もちろん、毎回のデート費用は全て俺持ち、『誕生日プレゼント』付きである。
そんな出費がかさむデートに不満を抱きつつも、俺は公園のベンチに腰掛けるゆあにある疑問をぶつけてみた。
「最近エリカちゃん来ないね、どうかしたの?」
その話題に触れた瞬間、ゆあの表情に陰りができたのを見逃さなかった。
「何かあったな」と直感的に感じたそのときだった。
「…エリカは、逮捕されたんだ」
仲が悪くなった、日程が合わない、病気、そんな普通の答えを待っていた俺は、予想もしない答えに素っ頓狂な声を上げた。
「はぁ!?どうして逮捕された!?なんで!?」
気が付けば、自分でも驚くくらい大きな声を上げていた。
「エリカは同僚のキャバ嬢にイジメにあってたの。ウチが見る限りでは、シカトされたり、ドレス汚されたりは日常茶飯事、他にもっとひどいことされてたみたい。店長やボーイに言っても無駄で、本人はウチだけに相談してたの」
「女は陰湿だ」その言葉が、一気に現実味を増してきた。
確かにエリカには、生意気なところは多少なりともあった。
しかし、少なくとも店の中では、それをできる限りセーブしていたように思う。
俺に対するあの生意気さも、イジメのストレスを抱えていたとなれば納得もいく。
だが、何がそんなに周囲をエリカへのイジメに駆り立てたのだろう?
店が上手く行っていないことに対しての憂さ晴らし?
他のキャバ嬢の指名客を奪ってしまったことへの嫌がらせ?
それは、ゆあの口からは明かされることはなく、未だもって真相は不明のままである。
「で、なんでそれが逮捕にまでなるんだよ!?」
「Yの先輩に脅されたらしいの。これで終わりにしてやるから、●●(某有名百貨店)で指定されたものを万引きしてこいって」
「それで、エリカはそのまま万引きしちゃったのかよ!?」
「そう、それで現行犯逮捕らしいの」
「お前エリカの親友だろ!?なんで万引きを止めなかったんだよ!?つか店やめりゃ済む話だろうが!?」
「あの娘はウチが説得しても聞いてくれなかった。多分そうとう精神がやられてたんだと思う。これで全部終わる、これで全部終わるからって言うだけだったし…うぅ」
ゆあは、突然その場で泣き始めた。
必死に我慢しているためか、それは次第に嗚咽へと変わり始めた。
「バカだな、泣くくらいなら力ずくででもエリカを止めろよ」
「だって、ウチもイジメに合うのが怖かったし…」
その気持ちは痛いほどわかる。
俺も高校時代にイジメられた経験がある。
「イジメられてる奴はやり返せばいいじゃん」とはよく言われるが、何人ものグループに対して1人で立ち向かうのは、相当の根性がなければできることではない。
ほとんどの場合、暴徒と化した集団の前では、個人は無力なことを俺は知っている。
「まあ、過ぎたことは仕方ない。気持ちを切り替えろよ」
残酷なことを言っているのは重々承知しているが、いつまでもこの調子ではゆあの精神も病みかねない。
彼女を鼓舞する意味で、無理矢理励まそうと思って口にした言葉だった。
「つか、Yは辞めろ。俺んちに住めばいい」
「Yはもう辞めるけど、みっくんちに住むのは無理。ウチ、猫飼ってるから」
「あっそ、まあとにかくYだけは辞めろ」
(タフなのかマイペースなのかよくわからん…)
俺は心の中でそう思った。
表面上は元気そうだし、この分だと立ち直るのも早いだろう。
そのときの俺には、親友の逮捕をきっかけに、ゆあの中で何かが崩壊していることに気付けるはずもなかった…。
狂い始めた「ゆあ」
結局、ゆあはその後すぐにYを辞めた。
彼氏彼女の関係は、細々とだが確実に続いていた。
「みっくん、お金貸してよ」
だが、ある日のデートの第一声がこれだった。
「なんでだよ?お金に困ってるのか?」
「今は仕事もしてないし、する気も起きない。当面の生活費だけでいいから」
「生活は今どうなってんだよ?」
「家賃を4ヶ月分滞納してる、携帯代も払ってない。せめて今月分は月末までに振り込まないといけない。このままだと住む場所も無くなるし、携帯も使えなくなっちゃう」
「いくらくらい必要なんだよ?」
「30万くらい…」
「はあ?なんで1ヶ月分の家賃と携帯代でそんなにいくんだよ?」
「…」
「正直に言えよ、お前なんかやらかしただろ?」
とりあえず何かあるなと思い、軽くカマをかけてみた。
「…お金に困って、闇金に手を出しちゃった」
不安は的中、ゆあはYを辞めたあと、金に困って闇金から金を借りたと言うのだ。
利子はトサン、「10日で3割」の超高金利である。
「最初にいくら借りたんだよ?」
「最初は10万円、でも金利が払えなくてジャンプ(金利だけを支払ってその場凌ぎをすること、そのために元金は全く減らない)してたら、借金がどんどん膨らんでいっちゃって…」
「当たり前だろ!なんで闇金なんかに手ぇ出すんだよ!つか先に俺に言えよ!」
「みっくんには、毎回デート代払ってもらってるし、欲しいものも買ってくれるから言いづらくて…」
一応、ゆあにも罪悪感というものはあったらしい。
だが、この時点での彼女への信用は皆無に等しかった。
「今の時点で、闇金にいくら借金あんだよ?」
「50万…」
案外、控えめな金額でホッとした俺がいた。
だが、ここで1つの疑問が浮かぶ。
「お前、金利だけはちゃんと払ってんだろ?」
「うん、10万の3割で3万とちょっと」
「なんで借金が増えてんだよ?」
「…」
「お前、ジャンプしたときにまた金借りてなかったか?」
「…うん、借りた」
つまり、ゆあは10日後の返済日に闇金から新たに金を借り、その金で金利を支払っていたのだ。
当然それだと元金が減ることはない、むしろ借金は雪だるま式に増えていくだけだ。
その後に待つのは、文字通り「借金地獄」である。
「正直、俺のお前に対する信用は一切ないし、今のお前に貸したらトばれて(行方をくらますこと)返ってこないとまで思ってる」
「…うん」
「それに、当然今の俺には50万を一括で返済するだけの余力はない」
「…」
「1ヶ月分の家賃と携帯代で合わせていくらだよ?」
「…5万円くらい」
「それだけは貸してやる、とりあえず家賃と携帯代だけは払えよ。お前、相変わらず俺んちに住む気はないんだろ?だったら自分で何とかしろ」
「うん…みっくんありがとう……うぅ」
「だから、泣くくらいなら最初からするなっての!」
そのときの俺にまとまった金があれば、ゆあを助けてやれたかもしれない。
しかし、そのときはゆあの言っていることが本当かどうかを信じることはできなかった。
たとえ本当の話だったとしても、50万という大金を貸すのはリスクが大きすぎた。
5万の金についても、ゆあから返ってくるとは微塵も思っていなかった。
その日を境に、ゆあとのメールのやり取りは激減した。
だが、心配する俺にさらに追い打ちをかけるように、ゆあは堕ちていった…。
破綻
ゆあとほとんど連絡を取り合わなくなってから、1ヶ月ほどが過ぎた。
週に数回、電話で短い時間だけ話をする程度である。
限られた時間の中で、借金のこと、生活のこと、恋人同士であるというお互いの意思確認も忘れなかった。
しかし、ある時期を境にゆあとの連絡がプッツリと途絶えた。
彼女が俺のことを彼氏だと思っているのかは、もはやわからなくなっていた。
だが、俺の中では面と向かって別れを告げることが関係を解消するケジメのようなものだと考えていたし、ゆあのことは未だに彼女だと思っていた。
そんなある日、バイトもなくやることがない俺は、いつものように池袋の駅周辺をうろついていた。
池袋の東口近くには『出会い喫茶K』がある。
「出会い喫茶ってどんなとこなんだろ、いつか行ってみるか」と、バカなことを考えていたときだった。
そこから出てきた男女にふと目をやると、見知った服装と横顔の女がいた。
その女は紛れもない、ゆあだったのだ。
一瞬目を疑ったが、何回見直してみても彼女に間違いはなかった。
ゆあは、遠目から見ても明らかに40代であろうオッサンと一緒に手を繋いで歩いていた。
「アイツなにやってんだよ!?」
とりあえず、人目につくところで声をかけるわけにはいかない、トラブルになることは目に見えているからだ。
Kさんから、出会い喫茶は援交の温床だと聞いたことがある。
店にもよるが、出会い喫茶にいる女の4割は「援交目的」なのだそうだ。
出会い喫茶の仕組みについては、別記事で詳しく解説させて頂くことにしよう。
最悪のケースだが、もしゆあがあのオッサンと援交するのであれば、必ずホテルに向かうはずだ。
そう考えた俺は、とりあえず尾行してみることにした。
そのときの時間帯は21時頃である。
ということは、飯を食ってからホテルに行くということは考えにくい。
案の定、ゆあとオッサンは夜の道をスルスルと歩いて行き、最終的に人気のない通りのホテルの前で立ち止まった。
ホテルに入ろうとする瞬間、ゆあに声をかけた。
「おいゆあ、お前何やってんだよ!?」
ゆあとオッサンが驚いた顔でこっちを見るが、そんなことは気にも留めない。
普段はチキンな俺だが、このときばかりは怒りに任せた言葉を発した。
「おいオッサン、すぐに俺の前から消えてくれ」
突然のことにオロオロするオッサン、「え…え…」と小さく繰り返す。
「言い方が悪かった、コイツは俺の女なんだよ。だから、頼むからどっか行ってくれ」
「は…はい…わかりました」
トボトボと消えていくオッサン、だがそのときの俺には、可哀想だという感情は微塵も持ち合わせてはいなかった。
勢いにまかせて、ゆあを問い詰めていく。
「で、お前こんなとこで何やってんの?まさか援交じゃないよね?」
ここで嘘でも、「違う」とゆあの口から聞けたらどんなに心が楽になっただろう。
事実がどうであれ行為前でもあるし、1度の過ちならその後の言い訳次第で許してしまうかもしれない。
…が、そんな俺の淡い希望は一瞬にして打ち砕かれた。
「今からあのオッサンと2(2万円の略)で援交するとこ」
ゆあは悪びれる様子もなくそう言った。
『最悪だ…』
俺の心がメキメキと音を立てて壊れていくようだった。
「いつからやってたんだよ?」
「みっくんと連絡取らなくなった頃から」
「なんでそんなことすんだよ!?」
「だって、闇金に返すお金作らなきゃいけないじゃん」
「んなことしなくても、普通のバイトやって金作ればいいだろ!?」
「…普通のバイトじゃ金になんないよ」
「俺はお前の彼氏じゃねーの!?なんのために俺がいんだよ!?」
「…みっくんのことは好きだよ」
「じゃあなんでこんなことすんだよ!?俺に対する最悪の裏切りだってことすらわかんねーの!?」
「それは知ってるよ、でもお金必要だし…」
溜まりに溜まった俺の不満は声となって暴発した、当分の間止まる気配がなかった。
だが、それを煽るかのように、ゆあがとんでもない一言を発したのだ。
怒りは頂点に達した、“コイツは狂ってる”という言葉が強烈に心に浮かんだ。
『もうコイツには何を言っても無駄だ』と思った瞬間でもあった。
「…お前、もう俺と一切関わるな。連絡もするな。携帯からアドレスも消せ」
「…わかったよ、でも今まで楽しかったよ。みっくんバイバイ」
ゆあは振り返ることもなく去って行った。
あまりにアッサリした別れに、俺は30分ほどそこに立ちすくんでいた。
まとめ

その日の夜、俺は家に帰って号泣した。
アイツのことを助けてやれなかったのか、なぜここまで堕ちるのを止められなかったのか、そんな激しい自責の念に駆られながら。
当然ながら、現在はゆあとは音信不通であり、その後の消息も一切掴めていない。
彼女の生き方についてとやかく言う権利は俺にはない。
だが、それは人間として、1人の女の子としてとても悲しい生き方ではないのか、俺は素直にそう感じた。
今日もどこかで、アイツは借金のために援交を繰り返しているのだろうか…。
そんなことを考えながら、俺は新たな物語を探すため、キャバクラに足を向ける。