40代前半でデリヘル嬢になった私の日々を紹介するシリーズ。
今回は、初めて指名をもらえた日のことや、お客さんからキャンセルされた日のことなどを書きました。
デリヘル嬢としての手応えやショックも素直に書いているので、デリヘル嬢がどんな仕事か気になる方はチェックしてみてください。
第7話.初指名は市外のお客さん

その日は突然やってきた。
10:00に事務所に着くと、「千秋さん10:30に広島駅に行けますか?」とスタッフのお兄さんに聞かれた。
「広島駅ですか?行けますけどどういうことですか?」
「指名入りましたよ」
まさかの指名。
しかも広島市内ではなく、東広島市まで新幹線でひとりで出向かなければならない。
『はじめてのおつかい』みたいな気分だった。
新幹線代の領収書も貰わないといけないので、券売機ではなくみどりの窓口に行かなければならない。
一気に焦った。
自分の荷物とお仕事バッグのチェックをし、時間に間に合うよう支度をする。
新幹線代は立て替え払い。
お金があってよかった。
メイクを見直してドライバーさんを待つ。
いつものようにシルバーワゴンでクロちゃんが来た。
「千秋さん人妻パネル、東広島まで!」
パネル…つまりお店のサイトなどを見て個人指名してくれたということ。
初めて聞く「パネル」の響きが甘く切なく胸に迫った。
遂にこの時がきた。
でも、初めてのパネル指名が市外になるとは思わなかった。
久しぶりの新幹線を楽しもう。
クロちゃんは余裕があるようにと車を飛ばしてくれた。
「頑張ってくださいね!」
「行ってきます!」
クロちゃんの声に送られて、私はみどりの窓口へ走った。
急ぐ、意外に人が多い。
(時間間に合うかな…)
お客さんには10:43発のこだまに乗ると説明してあるらしい。
ここでタイムロスがあっては信用を損ねる。
私は焦った。
ずいぶん待ったような気がした。
ようやく順番がきた。
「東広島まで自由席一枚、領収書お願いします」
発券までがまた長く感じられる。
壁の時計をチラチラ見る。
「領収書のお名前はどうなさいますか?」
「空白でお願いします」
切符と領収書を受け取ると、2階の新幹線ホームまで走った。
冗談抜きで10年以上乗ってない。
無事に乗車できるか自信がない。
それでも改札を抜け、ホームを間違わず、私は停車していたこだまに乗れた。
ほんの小旅行。
覚悟を決めた。
わずか10数分の新幹線の旅。
でも目的は旅ではなくお仕事。
流れゆく景色を眺めながら、これからのことを頭の中で整理していた。
東広島で降りたら、一旦トイレに行ってメイクチェック。
そして事務所に着いたと電話し、お客さんの車の特徴を教えてもらって合流。
そこから派遣時間のカウントが始まるので、再度事務所に合流した旨を電話。
ホテルに入ったら、ホテル名と部屋番号を伝えてプレイ開始。
どれかひとつ欠けてもいけない。
忘れてしまいそうで怖かった。
あっという間に東広島に。
見たことのない景色が広がる。
口から心臓が飛び出しそうになりながら、メイクを直し駅を出て、ロータリーをぐるっと見渡す。
「お疲れ様です千秋です。着きました」
「えーと黒の軽、ナンバーは****…」
電話を切って車を探す。
(黒の軽…結構いるじゃん)
傍から見たら完全に不審者だっただろう。
ふだんは裸眼0.1で行動する私、メガネも持ってきていなかった。
車にじーっと近づき、ナンバーの確認を繰り返して、やっとお客さんと合流した。
緊張でポツポツと話しながら、車は近くのホテル街へ。
ホテル名と部屋番号を伝え、プレイが始まった。
場所が違うとホテルの雰囲気も違う。
そんな気がした。
それくらい私は緊張していた。
初めてのお客さんを接客した時のように。
いつものように服を脱がせ、歯磨きとうがいをしてバスルームへ行く。
シャワーの温度を確認し、お客さんにも熱くないかを確かめてもらう。
手のひらで、私自身で身体を洗う。
男性器を洗うのも優しく、やさしく。
それだけでむくむくと反応していった。
バスルームでパイズリとフェラ。
とてもいやらしい。
立ったお客さんのお尻を軽く掴んで舐めあげると、足が小刻みに痙攣していた。
お客さんの身体を拭いて差し上げベッドへ。
いつものように乳首を舐め、全身リップ。
首筋、耳、腋、胸、脇腹、お尻、脚、足の指へと…。
足の指を口に含んでフェラのように舐めると、吐息が漏れ出るのが聞こえた。
すべての指を丁寧に執拗に舐めて、今度はいきなりフェラへ。
かすかに喘ぐような熱い吐息を聞きながら、思いつくままに舌を動かす。
手を一切使わないフェラ。
根元まで咥え込んで離さない。
私の自慢だった。
口と舌を駆使して、今日もフェラだけでイカせることが出来たので満足した。
そこで10分前コールが入った。
慌ててシャワーをし、手書き名刺の裏に「今日はありがとうごさいました、機会があったらまた会いましょうね♥」と書いて手渡した。
幸いに独身だから出来たことだった。
駅まで送って頂き、事務所に帰りの便の時間を告げる。
こだまだから1時間に1本なのが痛い…。
うだる暑さの中、クーラーが効いてるのかわからない駅構内でお茶を飲みながら、新幹線を待った。
お店に戻ると、早速写メ日記を更新した。
通常の写メ日記とは別に、接客したお客さんへのお礼メッセージコーナーがあった。
そこに先程のお客さんへのお礼を書いた。
「11:00頃にホテルメロン301号室でお会いした方へ♥今日はご指名いただき、ありがとうございました☆初めての東広島に行ってめちゃめちゃ緊張したけど、楽しい時間を過ごすことができました(≧∇≦)いっぱい感謝してます!たくさん感じてくださって嬉しかったです(人^∀^)またお会いしましょうね♪」
こちらもデコメが使えるので、めいっぱいデコメを駆使してお礼の言葉を書いた。
初めての指名を無事終えられたことに感謝した。
この頃になると、写メ日記へのメールも増えていた。
「ギニュー戦隊」のように下着を見て興奮し、白の下着姿を毎日リクエストする人もいれば、返答に窮する人も見られるようになってきた。
第8話.サイコパスと性病の不安
今日も勤務時間を知らせる写メ日記を更新した後、お客さんからのメールのお返事を書く。
ギニュー戦隊には白の下着のリクエストへの返信を、そしてもうひとり…。
最近「サイコパス」という名前のお客さんから、困ったメールが入るようになっていた。
ある時は体型を聞かれ、それを証明するために写メ日記へ全身写真の添付を要求されていた。
太っている私は素直には従わなかった。
幸い待機所にソファーがあるのをいいことに、そこに横になって全身を写した。
こうすれば少しは細く見える。
その写メを立っているように編集して載せた。
またある時はSMはできるのか、どんなことが好きなのかを聞いてきた。
会ったらプレイしてみたいからという理由ではなく、いかにも興味本位な聞き出し方だった。
普通ならお仕事だからさらっと答えるべきだけど、今回だけはすんなり答える気にはなれなかった。
サイコパスの要求は日に日にエスカレートしていった。
「顔を見せてくれ」
できるわけがない。
何のためにパネルをぼかしてるのか。
身バレしないようお店が配慮してくれているので、それはできないと固く断った。
お店の信用問題に関わる。
お店の写メ日記を運営するデリメイトには、嬢のための交流掲示板があった。
楽しくて参考になるので、私は毎日見ていた。
そこにサイコパスの愚痴を書いてみた。
反応はすぐに返ってきた。
他にもサイコパスに困り果てていた嬢が次々に現れた。
内容は同じで、名前を変えてメールをしてくるという情報も得られた。
お客さんとの交流のために続けてきた写メ日記だったが、これからは自衛をしなくては心が保たないことを思い知らされた。
お客さんを警戒しなくてはいけなくなるのが辛かった。
つつがなく仕事をこなしていたある日。
気がつけば喉が痛むようになっていた。
真っ先に頭をよぎったのは「性病」。
昔クラミジアと淋病を同時にもらって七転八倒した身としては、『これはヤバい』と急遽翌日お休みを頂いて総合病院に行った。
もし病気だったら当分仕事はできない。
でも風邪の喉の痛みとは違うような気がして、どうしても不安は拭えなかった。
「お入りください」
呼ばれて診察室に入る。
問診票にもしっかり『性病の不安がある』と書いておいた。
先生は「ちょっと喉を見ましょうか」と言い、ファイバースコープを鼻から入れた。
苦しいけどひたすら我慢。
するするっとファイバースコープが抜かれる。
「性病ではないですね」
(検査してないのにわかるものなの?)
びっくりする私に、「性病ならもっと酷いですよ」と教えてくれた。
「じゃあこれは何ですか?」
「逆流性食道炎ですね」
先生は続ける。
「食事が済んですぐ横になったりするとなりやすいですよ」
確かに…全くその通りだった。
お昼を食べると強い眠気に襲われ、すぐに寝てしまっていた。
食道が赤く荒れていたのだという。
胃酸を抑える薬を頂いてしばらくすると、痛みは治まった。
性病じゃなくて本当によかった。
イソジンうがいを丁寧にするのはもちろん、食べてすぐ横にならないように気をつけようと心に決めた。
第9話.連続勤務の3日間

このお仕事は、ラブホのみならずビジネスホテルに赴くこともある。
しかも昼間に。
バブルの頃にデイユース、つまりシティホテルでも休憩システムを取り入れている有名ホテルがあると聞いてびっくりした記憶があったが、どうやらそれは浸透しているらしい。
ようやってくれたねぇ
今日もブースの電話が鳴る。
「千秋さんお仕事ですぅ」
「ありがとうございます」
すぐに自分の荷物とお仕事バッグを持ち、ドライバーさんを待つ。
来たのはやっぱりクロちゃんだ。
「千秋ですよろしくお願いします」
「千秋さんキャットウォークフリー30分、ハイアットホテル1102!」
初めてのビジネスホテルへの派遣。
「タオル後ろにあるから取ってくださいね」と言われ、後ろを見るとブラウンのバスタオルが積まれていた。
それを小さくたたんで丸め、お仕事バッグに入れる。
さすがバスタオル、お仕事バッグはパンパンに膨れ上がった。
「いってらっしゃい!」
「いってきます!」
場所はビジネスホテル。
お仕事バッグを自分のバッグで隠し、そしらぬ顔でフロントをすり抜け1102号室へ向かった。
とにかく従業員に見つかりたくなかったけれど、コソコソしてるとかえって怪しまれるので、『私はここの利用者よ!』という顔をしてエレベーターに乗る。
幸い従業員に遭遇することもなく、部屋に着いた。
「お待たせしましたキャットウォークですぅ」
無言でドアを開けてくれた。
部屋は真っ暗、お札もはっきり見えない。
携帯の灯りで確認し、歯磨きうがいをお願いすると断られた。
シャワーをお願いすると、「もう2人呼んだから入りたくない」と言う。
仕方なく私だけ使わせて頂くことに。
ユニットバスに入ると、あまりの横柄な態度に思わず愚痴が漏れた。
「…めんどくさい」
「何が面倒くさいだって!」
「すみませんそうじゃなくて、歯ブラシがひとつしかないから歯磨きできないってやだなって…」
ビジネスホテルの盲点。
シングルだから1人分しかアメニティグッズがない。
仕方なしに、うがいとシャワーを済ませてプレイを急ぐ。
何せ30分指定なのだから。
年は30代くらいの雰囲気。
悪態をつきつつも、こちらに身体を任せてくれる。
何でも、お酒を飲んでデリヘルを呼んだけど、イクことも出来ずに3人目の私を呼んだのだという。
凄いプレッシャー、これでイカなかったらどうしよう。
ドキドキしながらフェラで攻める。
横柄だった態度は和らいだ。
イッてもらえたのだ。
「ようやってくれたねぇ」と喜んでくれた。
時間がないので急いで降りてドライバーさんを待っていると、足取りも軽やかに帰っていくお客さんを見つけた。
俺フェラでイッたの初めてですよ!
今日もまた指名を頂いた。
指名を頂くのは本当にありがたい。
でもプレッシャーも凄まじい。
何が何でも失敗は許されない。
今日もクロちゃんに連れられてお客さんの元へ。
「お待たせしました。人妻の花園です」
「待ってました!」
こんなに喜んで頂けるなんて、申し訳ない気がした。
あのパネル写真は私ではないのに。
とりあえず断られる様子はなかったので、おずおずと室内に入る。
時間を聞いて事務所に連絡し、プレイに入る。
身体を手と私自身で洗い、パイズリへ。
「すごいですね…パイズリされたの初めてですよ」
シャワーで泡を流すと、今度はバスルームでフェラ。
お客さんには立ってもらったまま。
これがかなり興奮を呼び覚ますらしかった。
お客さんを仁王立ちにさせてのフェラ、熱い吐息が聞こえる。
私は攻めに攻めた。
ここでイカせるくらいのつもりで。
口の中で張り詰めるように大きくなったモノをさらに攻めた。
「千秋さん…イクっ…」
お客さんは立ったまま私の口の中で果てた。
次に聞いたのは、びっくりする言葉だった。
「俺フェラでイッたの初めてですよ!信じられない!」
これには私も驚いた。
同時に初めての相手になれたのが嬉しかった。
やっぱりデリヘルで働く以上は口でイカせたい。
それが叶うのは女冥利に尽きる。
シャワーでもう一度身体を流し、拭いて差し上げてベッドに入った。
お客さんが回復するまで、全身マッサージをすることにした。
全身マッサージと言っても、ちゃんと習ったわけではなく完全なる自己流だ。
昔付き合ってた彼氏によくしていたのを思い出し、時間がある際にはお客さんにもしてあげていた。
「気持ちいいですね…わっそこそこ…効くぅ!」
これもお客さんを喜ばせたという意味で嬉しかった。
癒やしになれるのは最高だった。
しばらくすると寝息が聞こえてきた。
でも手を休めることなく、ひたすら揉んでいく。
「終わりましたよ」
起こすのは忍びないが、時間の関係で仕方ない。
「いやぁ気持ちよかった!アソコも身体もすっきりしましたよ!」
その言葉が嬉しかった。
『テクを持っていれば強い』と改めて感じた。
既婚者だったので名刺は渡さず、「写メ日記のお礼コーナー見てくださいね」と言ってホテルを後にした。
不完全燃焼
今日も通勤中と出勤後に写メ日記を更新し、待機所のブースの電話が鳴るのを待つ。
どんな人が待っているのか、どんなプレイが喜ばれるのか。
同じ店の女の子の写メ日記を見ながら、思いを巡らせる。
幸いにも午前中のうちに電話が鳴った。
ずっとお世話になっているクロちゃんが今日もドライバー。
「千秋さんザ・デリソーフリー40分、メゾン・ド・井口502!」
個人宅への派遣だった。
住宅地図とにらめっこするクロちゃん。
向かってみるとオートロックのマンション。
502号室を呼び出すが返事はない。
(トイレにでも行ってるのかな?)
しばらく時間を置いて、またチャイムを鳴らしても反応がない。
緊張でこっちがトイレに行きたくなってきた。
何度かチャイムを鳴らしてもお客さんは出て来ない。
さすがに焦り、事務所に電話して確認してもらうことに。
待つこと5分。
事務所から連絡が来た。
「千秋さんお客さんが番号間違えたそうです。603に向かってください」
脱力した。
なぜ自宅の部屋番号を間違えてしまうのか、502号室の人がお留守みたいで良かった。
『今度こそお客さんが出て来ますように』と603号室を呼び出した。
「はい」
「お待たせしました。ザ・デリソーです」
無事エントランスのドアが開いた。
部屋に行って再度チャイムを鳴らすと、若い男性が出てきた。
「どうぞ」
(無事に接客に持ち込めそう)
そう思った瞬間、あるモノに気がついた。
黒いパンプスだ。
同居している女性がいるのだろうか。
入室するのが申し訳ない気持ちになった。
歯磨きうがいを拒否され、シャワーも「もう入った」と断られ、さらにプレイ前に緊張をほぐそうと世間話を始めると、同居女性から「今から帰る」の電話が。
結局プレイはできず、料金は頂けたものの、不完全燃焼なお仕事だった。
第10話.消えた亜衣ちゃん、再会したお客さん
女が3人寄ると「姦しい(かしましい)」と書く…そうでなくとも、移動中の車内は賑やかだ。
「ねえねえ亜依知ってる?」
ふいに最近話すようになった女の子から聞かれた。
同じ『人妻の花園』に所属する亜依ちゃんのことだった。
「なんかさぁ、あの子臭くない?ちゃんとお風呂入ってんのかな」
(こういう陰口嫌だな…あまり乗りたくない)
「顔は知ってるけど、一度しか送迎で一緒になったことないから気づかなかったよ」
本当は待機所でも何度か話したことがあるのだけど。
「彼女専用の座布団あるんだよね…ねえクロちゃん」
「ああ、あれねぇ…」
何のことだかさっぱりわからない。
きょとんとしていると、クロちゃんが説明してくれた。
以前亜依ちゃんが乗車した時に、座布団がお漏らしをしたみたいに濡れていたのだという。
それ以来、クロちゃんは彼女用に座布団を用意しているそうだ。
クロちゃんの対応は仕方ないとして…私も何か言われてるのかな。
「そういえばスカートのお尻のところが、色が変わるくらい濡れてたこともあったよねぇ。絶対あれ性病持ってるよね」
「それってヤバいんじゃ…ちゃんと治療した方がいいのに」
その時は気づかなかったけれど、もしかすると亜依ちゃんは本番をしていたのかもしれない。
私にタクシー代を借りに来たこともあったから、病院代も捻出できなかったのだろう。
「なんかホストクラブにも行ってるらしいね、男にお金貢いでるんじゃない?」
居たたまれない気持ちになった。
ホスクラとは全く無縁な私だけど、他人のことをとやかく言うのはどうなんだろう…。
それからしばらくすると、亜依ちゃんの姿を見かけなくなった。
それとなくクロちゃんに聞くと辞めたらしい。
何があったのかは知らないが、妙に気になった。
掛け持ちしてるの?
ゆったりとした時間が流れる。
待機所に置かれた80円の缶ジュースを飲みながら、写メ日記に寄せられたメールにお返事をする。
ギニュー戦隊やサイコパスの他に、「いつか指名したい」とメールをして下さるお客さんがいるのも嬉しかった。
お互いのアドレスはわからないしお金も要らない。
気軽にやり取りできるツールだった。
お返事をしていると、ブースの電話が鳴った。
「千秋さんお仕事ですぅ」
「ありがとうございます」
今日はB系ドライバーさんの運転だ。
「千秋ですよろしくお願いします」
「千秋さんデリランドフリー40分、ホテルトマト203ね」
いつものことながら、緊張で顔が引きつる。
部屋のドアの前に立った瞬間から、闘いは始まる。
気に入ってもらえるかもらえないか。
それは一瞬で決まるのだ。
ホテルトマトの前に車が止まる。
「行ってきます!」
不安を抱えながら、私は203号室へと向かった。
いつまで経っても慣れない瞬間。
深呼吸をしてドアを叩く。
「お待たせしましたデリランドですぅ」
「どうぞ」
(よかった。チェンジはなさそう)
でも油断はできない。
デリヘルを呼んだことをバレるのが嫌で、取り急ぎ部屋に入れてからチェンジを通告するパターンもあるからだ。
時間交渉をして料金を頂けるまでは安心できない。
無事交渉も成立、お金を頂いてプレイ開始。
歯磨きうがいをして頂き、シャワーへ。
つつがなく進む。
ベッドに入った時、お客さんから驚くことを言われた。
「以前にも会ったね。掛け持ちしてるの?」
私は焦った。
必死で記憶を辿った。
ザ・デリソーで接客した、迷惑メールに困っていたお客さんだった。
「掛け持ちしてるの?」は想定外。
同じ経営者とも言えず、仕方なく「掛け持ちなんですぅ」と答えるしかなかった。
幸いそれ以上は追及してこない、いいお客さんだった。
本番も強要しないし、「30代が話しやすい」と言ってくれる。
『指名してくれたらいいのになぁ』とこっそり思ってた。
ザ・デリソーやデリランドの所属ではないから、そもそも私を指名できるのかはわからないけれど。
『また呼んでもらえたらいいのにな』とお別れした。
お店に戻り、スタッフのお兄さんに聞いた。
「違うお店で接客したお客さんに当たって、掛け持ちしてるのか聞かれたんですが、この場合どうすればいいでしょうか?」
スタッフは焦っていた。
本来、一度接客したお客さんには、再度フリーで付かないように電話番号で管理しているらしい。
今回はラブホの電話からかけてきたから分からなかったのだろう、という話になった。
指名はしないというあのお客さん。
フリーで再会する夢は潰えた。
第11話.暗雲立ち込める4日間

何度目になるだろう。
また指名を頂いた。
今度はAFのオプション付き、つまりアナルファック(アナルセックス)を希望するお客さんだ。
AFは本番行為には入らない。
確実にオプションだけで10,000円入ってくるのは有り難かったが、過去に経験があるとはいえ、最近はしていない。
(アレが太すぎなければ、長すぎなければいいなぁ。その前にキャンセルにならないといいなあ)
そう思いながらホテルに着いた。
ポルチオを突き上げられる快感
「お待たせしました人妻の花園ですぅ」
「入って」
いつまで経っても慣れない瞬間。
でもその方が初々しくていいのかもしれない。
幸い受け入れられ、時間を決めて料金を頂く。
歯磨きうがいを済ませると、バスルームに入った。
いつものように、私の手と身体でお客さんの身体を洗う。
抱きついて胸で胸を、そのまま手で背中を洗い、胸で男性器を挟んでパイズリをする。
私のテクニックは突然天から舞い降りる。
洗いながら閃いた。
ボディーソープがついたまま向かい合って立ち、アソコに男性器を挟んで素股をしてみた。
意表を突かれたようで、お客さんは驚きつつ喜んでくれた。
私も感じてしまう。
挿れたくなってしまうのを我慢して素股を続ける。
前後にリズミカルに腰を動かす。
本当に挿れたくなってしまう前に止めて、泡を流しフェラをする。
「美味しい…」
身体の芯がじんじんするのを抑えるのに苦労しながら、むしろ抑えるために一心不乱にいきり立ったモノを愛し続けた。
このままイッてしまうとオプションのアナルセックスができないので、途中で止めて再びシャワーで身体を流し拭いて差し上げる。
バスルームを出て、ついにアナルセックスへ。
アナルと男性器にたっぷりローションを塗り、正常位でゆっくり挿れる。
久しぶりの感触。
思わず喘ぎ声が漏れる。
「はぁ…っ…いいっ…」
さっきの素股の影響で敏感になった身体が、さらに敏感になる。
アナルも感じる私は何度も果てた。
アナルに挿れてるのに、前にも挿れてる感覚になる。
潮もたくさん吹いた。
「ダメぇ…たまんない…」
身体がとろけそうだった。
お客さんの動きが早まる。
「いゃんっ…ダメになっちゃうよぉ…ダメぇ…」
私は快楽に溺れた。
「もっと…もっとぉ…っ」
「イクよっ、イクよっ…」
ポルチオを突き上げられる強い快感に溺れ、お客さんは私の中で果てた。
やっぱりキャンセルします
ありがたいことにまた指名を頂いた。
しかも今回は夜の予約。
そこまでして指名して頂けるなんて。
本来なら夜は働かないが、指名となればお受けする。
いつものことながら、指名はフリーより何倍も緊張する。
お店の看板を背負っている意識がより高まるからだ。
気合いを入れてその時を待つ。
いつものように車に乗り込む。
この時間帯は夜担当のドライバーさん。
もちろん初めて見る顔だ。
「千秋さん人妻パネル1時間、鶯橋商店街角の薬局で待ち合わせね。目印はグレーのスーツ。合流したら事務所に時間の連絡ください」
人妻の花園は、こういう街角での待ち合わせ派遣もあった。
私は今回が初めてだった。
渋滞のない夜の街を走り、鶯橋商店街へ。
近くに車を停めて、それらしき人を捜す。
「あの人ですかね」
「あの人っぽいね」
「じゃ行ってきます」
「連絡お願いしますね」
それらしき人の元へ駆け寄る。
「お待たせしました。人妻の花園の千秋です」
「…ホテルまで歩きましょうか」
事務所に合流した旨を伝えて、夜の商店街をホテル街に向かって歩いた。
ポツポツ話しながらホテル街へ向かう。
夜になると風が止まる土地柄ゆえ、ただでさえ暑い夏の夜はさらに暑い。
だがお相手の表情は冴えない。
緊張しているのだろうか。
そのうち無言になってしまった。
嫌な予感がした。
歩む足が止まった。
「やっぱりキャンセルします」
(え、何それ…)
だから何もかもがぎこちなかったのか。
仕方なくお客さんの前で事務所に電話をした。
「お疲れ様です千秋です。すみませんキャンセルになりました…」
情けなかった。
女として認められていない気持ちになった。
さっきの商店街に戻る道もわからなくなり、とりあえず大通りに出ることにした。
コンビニでお茶を買い、じんわりと汗をかきながらドライバーさんを待つ。
車に乗り込み、夜のドライバーさんにキャンセル料3,000円を払った。
愚痴る元気もなかった。
待機所に戻ると、お仕事バッグを返して帰宅した。
なんのための勤務延長だったんだろう。
虚しさばかりが残った。
本番しよう
土曜日の昼下がり。
思ったより待機所のみんなの電話は鳴らない。
B系ドライバーさんも隣のブースで会話に興じている。
やっぱり不況ゆえか。
それでも一度は鳴るもので、幸いお仕事ゼロにはならなかった。
今日の派遣先はオークランドホテル。
いわゆるシティホテルだ。
以前の教訓をもとに、携帯歯ブラシセットはいつも持参していた。
歯ブラシセットをお仕事バッグに入れ、ホテルへ向かう。
さすがシティホテル。
作りが豪奢でロビーも広い。
またお仕事バッグはバスタオルでパンパンだった。
自分のバッグで隠し、フロントに声をかけられないか緊張しながらエレベーターに向かった。
無事13階に着いた。
1305号室を目指す。
と思いきや、廊下に団体を発見。
近づくと、婚礼客とおぼしき家族とスタッフ。
ここを通らないと1305号室には行けない。
コソコソせずに悠然と歩いていった。
気づかなかったのか、声はかけられなかった。
1305号室に着きノックをする。
「お待たせしましたキャットウォークですぅ」
「入って入って」
半袖の下着にステテコ姿でお出迎え。
なんだかいかにも『待ってました!』という感じで、『もう少しがっつかずに待ってて欲しかったなぁ』なんてことを思った。
年齢は50から60代といった感じ。
チェンジはされなかった。
時間を決めて料金を払って頂き、歯磨きうがいシャワーの後、プレイへ。
フェラをしてしばらくすると、「やろうよ」と言う。
何のことだかわからずにいると、「本番しよう」と言い出した。
「本番なんてできません」と突っぱねると、「ゴムは持ってきたから大丈夫だ」と言う。
そういう問題ではない。
デリヘルは本番禁止なのを知ってて言ってるのか。
ゴムをしてもお金をいくら積まれても本番はしない。
半ば強引にフェラに持ち込みイカせた。
(本番してる子、多いんだろうなぁ…)
暗澹たる気持ちになった。
高いびきで寝ているお客さんの横で、時間までぼんやり笑点を見ていた。
もういいから帰って
今日のお仕事は自宅派遣。
正直言って自宅派遣は苦手だった。
単身者向けのアパートがメインなため、シャワーをしようにもユニットバスが多く、一緒に入るには狭い。
バスルームでパイズリや素股で遊ぶことが難しいのが不満だった。
お客さんの部屋を訪ね、無事チェンジされることもなくプレイに移った。
年頃は20代後半といったところか。
あまり喋ってくれない。
実は人見知りで口下手な私は焦った。
どうリードしていけばいいのか。
それでもズボンを脱いでくれて、本番を迫られることもなく、私は感じさせることに集中した。
フェラでイッてくれて安心していると、「もういいから帰って」と言われた。
風俗って会話も込みで楽しむものじゃないのか。
時々ソープで男性が早くイカされて、時間より早く帰されるという話を聞いたことがあるけれど、まさかその逆をされるとは思わなかった。
仕方なくスタッフに「お客さんに帰っていいと言われたから帰ります」と電話をし、ドライバーさんが来るまで部屋で待たせてもらうことにしたが、やはり会話は弾まなかった。
ようやく来たドライバーさんに、「こんなことってあるんですか?」なんて聞けなかった。
お客さんに要らない嬢扱いされたみたいで、チェンジ以上にへこむお仕事だった。
第12話.おススメされたNG客
このお仕事を始めてからずっと気になっていた。
お店のサイトの「本日のおススメ」に毎日載せて頂いている。
ブスでデブな私が…である。
理由がわからないまま、いつもスタッフに「おススメに載せてくださってありがとうございます」とお礼を言っていた。
そのおススメを実感する出来事があった。
他店のフリーで呼ばれたのだが、スタッフによると「いい子がいますよ」と私を推してくれたらしい。
お相手は週1は利用する常連さんだ。
移動中、緊張からお腹が痛くなった。
幸い派遣は私だけ、後部座席で横にならせてもらった。
これが思わぬ波乱の派遣になるとは思ってもみなかった。
無事お客さんの元に着き、利用時間を聞くはずだった。
お客さんから放たれた言葉に、私は凍りついた。
「なんであんたみたいなのが来たん」
返す言葉がなかった。
スタッフと話がついてると思ったのに。
それに「あんたみたいなの」って何。
「ちょっとお兄さんと話すから、下降りてて」と言われ、仕方なく車に戻る。
「あれ?千秋さんチェンジですか?」とびっくりするクロちゃんに、「何がなんだかよくわかんないんだけど、お店と話すから下で待っててくれって言われたんです」と説明した。
予想外の事態に、クロちゃんも怪訝そうな表情を見せた。
何分経っても連絡がない。
再びお腹が痛み出した。
トイレに行きたい…でも現状では動けない。
泣きそうになった。
どれくらい経っただろう。
やっとお店から「お客さんの元に戻ってください」と連絡があった。
どんなやり取りがあったのかはわからなかった。
「せっかく来てもろうたんじゃけえ、仕方ないわ。今からチェンジしても時間かかるし」
その言葉に複雑な気持ちになった。
(やっぱり細くて綺麗な子がいいよねぇ)
ここに来るまで約20分。
もう夕方近かったから、確かに再度呼ぶには躊躇われたのかもしれない。
自宅利用だからホテル代はかからないけれど。
すったもんだの挙げ句、2時間利用で話がつき、料金を頂く。
一緒にバスルームに入ると、壁にセッティングされたディルドーを挿入させられた。
バイブなど、おもちゃの利用はオプション料金となる。
私は警戒し始めた。
バスルームから上がりプレイへ。
フェラをしようとすると、「それはいいから本番をさせろ」と言ってきた。
(話が違う!)
断固として断った。
常連さんなど関係ない。
自分の身は自分でしか守れない。
また言い争いになり、どうにか本番は回避してフェラでイカせた。
こんなのってアリか…?残り1時間付き合わなければならないのが心から苦痛だ。
本気で帰りたくなった。
仕方がないので、いつものように全身マッサージをすることに。
抜くモノさえ抜いてしまえば、性欲はしばらく収まるから、フェラをしてもくすぐったいだけだろう。
全身マッサージなら時間もそこそこ稼げる。
ひとこと断ってマッサージを始めた。
全身マッサージに入った私は集中し始めた。
凝っていそうな所を丹念にほぐしていった。
時間の感覚はなかった。
ただひたすら揉んでいた。
いつしかお客さんは寝てしまっていた。
マッサージが終わるとタオルケットをかけておき、時間までそっとしておいた。
テレビがついてたので、それをぼんやりと眺めていた。
やがて10分前コールが鳴り、私はお客さんを起こした。
「それじゃ帰りますね」と言う私に、「悪かったの、ようしてくれたの」と謝ってくれた。
でも、掟破りをしたお客さんを許す気にはなれなかった。
暗い道をクロちゃんと一緒に戻る。
本番強要を愚痴ったら、他にも本番を強要された子がいたことがわかった。
(なんでこんなお客さんが常連なの…)
お店に戻るとスタッフに「いいお客さんだったでしょ」と聞かれ、「とんでもない!」と不満をぶちまけた。
「それなら次からは接客NGにしておきますね」
そう対処が決まった。
既に勤務時間は終わっていた。
どっと疲れを感じながら家路についた。
まとめ

今回は、初めての指名から少しずつ指名をもらえるようになった時期のことを書きました。
やっぱりチェンジや無愛想な対応をされるとショックは大きいですね。
本番強要など、かなり刺激的な内容も多かったかもしれません。
次回は、私がお店を卒業することに至った経緯を書いていきます。